篠田 桃紅
篠田桃紅が三月一日に老衰で107歳で亡くなったことを知りました。
若い頃から彼女のすべてが「憧るる女(ひと)」そのものでした。
「墨象」と命名された作品群•容姿・文章、美しい言葉の重なる文章から察せられる思慮深い
無駄のない生活様式。
あまりの熱中ぶりに「遭わせてあげましょう」という奇特な方があって舞い上がりました。
手土産に赤間石の手のひらサイズの硯を注文して待ちましたが…さて…よく考えてみると無知な田舎者が彼女に会ってどうしょうというのでしょうか。「ファン」それだけです。
彼女の時間を割く資格がないと悟り断りの旨を伝えました。
「何故・どうして、勿体ない」との由でしたが、いまでも正解だったと思っています。
その後、彼女のリトグラフの作品を入手しましたが、不思議と自宅の何処にも不似合いでした。
日常茶飯に紛れて過ごしましたが「憧るる女(ひと)」であることには変わりがありませんでした。
そう…雲の上の人的存在だったです。
97歳の彼女を取り上げた婦人誌の編集者の話では、当日の取材のために着物を新調されて臨まれたそうです。写真でみると渋い色合いの熨斗目格子紋でした。
因みに手土産は駿河台下の御菓子処「ささま」の生菓子が指名の好物だったそうです。
先晩、深夜放送で100歳の折のインタビューが再放送されていましたが、アナウンサーがタジタジとなる強靭な精神力と峻烈な個性…確かな滑舌。
その孤高な人が追い求めた墨せん…墨せんは二つとして同じ線は書けません。その線に魅せられて追い求め…求めて果つることのないお方だったのでしょう。
香り高い墨と良質な硯、選び抜かれた和紙に筆…。
喜怒哀楽を合わせても尚、幸せな生涯であったと傍目に思いました。 合掌
横浜のそごう美術館で2021/4/3〜5/9まで篠田桃紅展「とどめ得ぬもの 墨いろ 心のかたち」が開催されるようです。