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2016/02/24

感慨

 夢というのは(フルカラーの夢をみますが、白黒の人もいると聞いて驚きます)情景が切れ切れで取り止めがなく、目覚めると霧散して記憶に留まらないものがほとんどです。それでも吉凶・奇想天外…様々な夢は就寝中の楽しみです。なぜなら夢は夢で現実ではないからです。
 しかし、夢が現実になるとそうはいきません。あるのは空恐ろしいような、先々の日々の予感といったら大げさでしょうか。
 長年の夢というか希望というか、少なくともこの十年以上の歳月を託してきた「仕覆ものがたり」が刊行になりました。原稿を手の裡に持っている間は想像たくましゅう楽しんでいることができました。
 しかし、公然と本屋の棚に並ぶとなると話は別です。本は手を離れて読者に委ねられていきます。その読者の顔は見えません。
 本は学術書ではありません。強いていえばパッチワークのような継ぎ接ぎのレポートでしょうか。それも不出来なシロモノです。
 その不出来なシロモノを取り上げてくださった「里文出版」の勇気に頭を下げます。昨今の出版不況を思えば僥倖な瑞夢の実現でした。
 加えて敬愛する竹内順一先生から「序文」を頂戴しました。さらに尊敬するカメラマンの小林庸浩氏が表紙を撮ってくださいました。仕覆を着せた「古伊万里柳図茶碗」です。(柳と柳をかけました)
また追い込みに入った年末からの一ヶ月予期せぬトラブルが発生しました。不徳のなせることでしたが、その対処に幾人もの方々の好意をうけました。その結果は思いがけなく良い方向に進んで、本来は3×4cm程度の図版の予定でしたが資料提供・「灯屋」撮影・小林庸浩として巻頭ページを飾っています。
 禍は捉え方で力を与えられるものだと手を合わせました。こうして稚拙な書物は身の丈以上の幸運に助けられて世にでていきます。
 この先は読者の方々のご批判、ご意見を仰ぐことになります。それがどんなに酷な内容であっても「貧打の一灯」となって「仕覆」という袋ものの継承につながっていくものだと心丈夫に思っています。
 ここまでの道程のすべてを感謝という月並みな言葉で表すことはできませんが、素直な気持ちと謙虚さを持って夢から脱して現実と向き合っていきましょう。

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